今回のテーマは、「勤務医の大量離職・退職」です。
最近「医師が十~百人単位で、一度に退職をした」というニュースを、目にすることが増えましたよね。
そんなとき「市民への影響」については心配され、対策もされますが、「そこで働く医師」への影響は議論になっていないように感じます。
そこで今回は、大量離職が起こったときの医師側への影響や、いざという時に役立つ準備について、解説していきます。
大量離職が起こる原因
まずは勤務医の大量離職が起こる原因について解説します。よくある原因は、下の3つです。
・待遇や職場環境の悪化
・閉院、合併、部署の閉鎖
・医局と関連病院の確執
待遇や職場環境の悪化
最もよくある原因は、「待遇、職場環境の悪化」です。
昨今どこの病院も経営が苦しく、賞与の減額や手当の廃止ということは、珍しくなくなっています。手当という形をとっていても実態は基本給の一部なので、要するに減給です。
最もインパクトが大きかったのは、ある大学病院が行った「外勤の禁止」ですね。大学病院の医師は、給料の半分を大学病院から、もう半分を外勤先から得るのが一般的な目安です(比率は人によって差がありますが)。
このような病院単位での離職以外に、医局単位での大量離職(医局員が一度に辞めてしまう)というのも、よくあるパターンです。
医局に「入る割合」は昨今それほど変化がないものの、「辞めるハードル」はかなり低くなっていますよね。基本的にはパラパラと退局者が出る程度なのですが、何か大きな「失敗」があると急激な退職に繋がります。
・医局上層部を中心に、全体の雰囲気が悪くなる
・不公平感のある人事や、仕事の割り振りをする
・関連病院の都合で、非常勤ポストを維持できなくなる
といったことが、よくある原因ではないでしょうか。
ただでさえ待遇が厳しいところに大量離職がおこるわけなので、残った人の負担は更に大きくなっていきます。こうして雪だるま式に、離職者・退局者が増えていきます。
閉院・合併・部署の閉鎖
先程も書いたとおり病院の経営はどこも苦しく、閉院や吸収合併も珍しい話ではなくなってきています。厚労省が、公立病院の1/3で「統廃合を含めた再編の検討を求める」という方針を発表しているほどです。
吸収合併後も継続雇用となればまだ良いですが、それでも待遇や診療体制、勤務地は変わるわけなので、なかなか難しい状況にはなりそうです。
医局と関連病院との確執
通常、医局と関連病院はwin-winの関係で成り立っています。
関連病院側のメリット
・医師を派遣してもらえるので、採用のコストがかからない。
・速やかに欠員の補充をしてもらえるので、普段の人員確保は最低限ですむ。
・問題のある医師は、引き取ってもらえる。あるいは別の医局員にフォローしてもらえる。
・適度に異動があるため、退職金や賞与が割安になる。
医局側のメリット
・働き口を提供する(独占する)ことで、医局員を抱えることができる。
・非常勤ポストを作ることで、大学病院医師の生活を支えられる。
詳しくは、こちらの記事にまとめています。
関連病院にとって医局ってどんな存在?メリット、デメリットを解説
関連病院としては上記のようなメリットを得る代わりに、人員配置を医局に一任しています。医局の都合で配置が決まるため、関連病院では「人員の不足やダブつき」、「非常勤医師への支払いの負担増」といったことが起こりえるわけです。
このような状況に対し、関連病院側が「常勤・非常勤ポストの削減」や「派遣医師の変更」を強く求めた時に、揉め事が起こります。
こうなったときの結末は、2つです。
まず「代わりの医局がみつかる=別の医局の関連病院になる」というのが、成功パターンです。実際それによって負担が軽減し、経営が改善した病院もあります。
逆に「代わりの医局がみつからない」というのが、失敗パターンです。業務を縮小するか、あるいは割高な非常勤医を毎日雇うことによって、業務を賄っていくことになります(約2倍の金銭的負担に)。
転職市場への影響
大量離職の転職市場への影響(巻き込まれた医師への影響)について、下の2パターンに分けて解説していきます。
・退職者が医局外に流出した
・退職者が医局内に留まった
医局外に流出した
大学病院からの退職、医局単位での退職(退局)といった状況が、これに該当します。こうなると、近隣の転職市場は、かなりの買い手有利(病院側が有利)となります。
同じ病院や医局の医師からまとまって相談をいただく事もございます。
エリアによりますが、医療機関が少ない地方では少なからず影響がございます。ご希望のエリアで希望の求人が見つからない場合には、エリア外も含めてご提案を差し上げています。
個人情報保護の観点から他医師からも相談を受けている事はお伝えできませんが、社内では情報共有しているので、市場感をお伝えする事は可能です。
引用元:エムスリーキャリア取材記事
特定の医療機関の先生から複数のご相談を同時期にいただくケースはあります。個人情報につながるような情報はお伝えできないのですが、傾向としての他の先生方の動向はお伝えできることもあります。
弊社では求人担当がエリアの医療機関の採用担当者と常にコンタクトを取っていますので、○○科は来春に□名新規で入職予定、△△科はベテランの先生が退職してポジションが出る見込み、といった先々の情報も入ってきますので、すぐの転職を考えていらっしゃらなくても、希望されるエリアの転職市場について情報交換して検討材料としていただくことも可能です。
引用元:Dr. 転職なび取材記事
確かに医師免許さえあれば、「どこかに、何らかの」仕事はあります。ただ自分の希望するポストが必ず手に入るわけではありません。
僕自身、転職活動を通して実感したのですが、「みんなが就きたいポスト」ってかなり被るんですよね。いいと思ったポストから、どんどん埋まっていきます。
・給料が良い
・現在の職場から近い
・現在の仕事内容に近い
・便利な土地
・治安の良い土地
・教育に向いている土地
大量離職という状況になれば、こんなポストは争奪戦になります。動き出しの早さが、その後の人生を左右すると言えるでしょう。
医局内に留まった
医局が関連病院から撤退する、関連病院が閉院・合併するといったことが起こると、そこで勤務していた医師は、医局にとどまることになります。
医局から別のポストが斡旋されるわけですが、これもなかなかシビアです。
便利な立地であったり、給料が良かったりといった人気の関連病院のポストは、埋まっていることがほとんどです。結果として、「とりあえずポストが空いている僻地病院」「とりあえずアルバイトで生活ができる大学病院」という人事になりがちです。
どちらのパターンでも、身近で大量離職が起こって「よかったね」という状況は、ちょっと想像しにくいですよね。
日頃からできる対策
こういった大量離職・退職に備えて、日頃からできる準備や対策はあります。簡単で即効性がある順に、挙げていきます。
転職エージェントと関わっておく
最も簡単で即効性があるのは、日頃から転職エージェントとの関わりを持っておくことです。具体的なメリットは、下記の通り。
・転職候補をピックアップしておける。
・自分や家族の希望を明確にする=心の準備ができる。
・自分に合うエージェント(担当者)をみつける。
さらに取材記事でも言及されている通り、「最近、この近辺の○○科のポストが埋まってきています」などといった情報を教えてもらえる可能性もあるわけです。
こういった準備が、いざというときの行動の早さにつながります。
コネクションを持つ
転職エージェントだけではなく、「自分でも転職候補を探しておく」ということも可能です。
コネクションと言うと、ちょっと胡散臭い言葉になってしまいますが、要するに「医局外の人からの信頼を得ておく」ということです。
具体的な方法としては、「一緒に勉強会をする」「非常勤や臨時のバイトで一緒に仕事をする」などです。
自分で職場を探すというのはハードルが高いように感じるかもしれませんが、医局を辞めた今、そこまで難しいことではないと感じています。自由に動けるようになると、「手伝いに来ない?」というお話をいただくことが増えるんですよね。
「表立って求人を出すほどではない=誰でもは要らない。でも人手不足気味なので、信頼できる人ならばほしい」というニーズは、実はかなりあります。社会情勢を反映してか、「スタッフ数は足りているけれど、高齢化しているので、そろそろ若い人を雇いたい」というのもよく聞く話です。
資格・実績を積む
上の2つよりは時間がかかるものの、資格や実績を積むというのも、ポストの確保という意味では有効です。
例えば専門医資格の価値についての、転職エージェントの見解はこちら。
専門医資格は、もちろん転職でプラスになる事はありますが、持っていない事でマイナスに働く影響の方が大きいです。募集段階で専門医資格を要件にしている医療機関は多くありませんが、書類選考の時点で専門医資格が無いことで落とされる事があります。
専門医維持にはコストも掛かるので、最低限基本領域の専門医だけは維持しておけば転職において不利になる事はないと思います。
また、近年は医療機関のウェブサイトや院内の掲示などから医師について下調べを行った上で受診する患者が増えています。そのため、医療機関の集患の観点からも専門医が望まれる傾向があり、特に都心部では専門医資格を保持していない医師は面接さえ受けることができないケースも少なくありません。転職を有利に進めるという観点からも、専門医資格を取得し、維持しておくことが大切です。
引用元:マイナビDOCTORホームページ
普段仕事をしていて専門医資格の価値を感じる機会は少ないかもしれませんが、いざ転職をするとなれば、最低限の信頼性を担保するものとして意味があるということがわかります。
もちろん資格や実績を手にするにはコストもかかるため、「とにかく何でも取っておく」というのは、コストパフォーマンスが悪いかもしれません。
ただ医師のキャリアにおいて「経歴」は、一般的なイメージよりは、意味があるものだと感じています。
身軽に動けるようにしておく
ここまで書いてきたとおり、社会の変化とともに「1つの医局1つの病院で、勤め上げる」というキャリアが描きにくくなっています。そんな状況下では、身軽に動けるようにしておくというのも重要です。
具体的に言うと、まずは生活レベルを上げすぎないということです。
あえて給料が下がるような転職をする必要もないですが、高給なポストに限定してしまうと仕事内容や地域などの選択肢が減ってしまうのも事実です。
特に、大量離職で供給過多が起こっている場合は厳しいかもしれません。
また持ち家に関しては、大きなリスクになると個人的には考えています。詳しくは、こちらの記事にまとめています。
勤務医にとっての持ち家リスクを解説
実際、「本当は医局を辞めたいけれど、家が手放せなくて…」という元同僚もいます。家族がいれば難しい点もあると思いますが、可能な範囲で「身軽さ」を心がけたいものです。
正社員の解雇は難しいという話
ここまでの内容に関連して、知っておいたほうがいいことを2つ説明します。
1つ目はこちら。
ポイント
よほど勤務態度に問題があって、かつ長期間に及ぶ指導などでも改善しない場合などに限られます。
医師の世界では医局人事の影響もあって、「はい、今年で退職して、あっちに移って~」ということが可能という風潮がありますが、実際はそんなことはないわけです。
2つ目はこちら。
ポイント
まず退職金の額が全く違います。一般的な大企業の、退職金額の目安がこちらです。
単位:万円
勤続年数 | 3年 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 定年 |
会社都合 | 68.7 | 123.8 | 321.8 | 588.4 | 965.9 | 1426.9 | 2012.9 | 2455.2 | 2511.1 |
自己都合 | 32.8 | 63.4 | 186.1 | 407.6 | 801.8 | 1287.0 | 1898.3 | 2368.3 | - |
参考元:りそな年金研究所 企業年金ノート2021. 4 No.636
自己都合か会社都合かで、勤続年数によっては百万円単位の差になることもあるわけです。退職金は税制面でもかなり優遇されているため(退職所得控除)、この差は大きいです。
また失業保険に関しても、会社都合のほうが、給付額や給付日数が多くなります。
大量離職・大量解雇など不安定な状況下ではこういった知識をもとに、転職のタイミングや金銭といった面で不利にならないように、行動していきたいものです。
まとめ
大量離職による医師への影響について、解説しました。
ポイント
- 大量離職は、待遇悪化、閉院・合併、関連病院からの撤退で起こりやすい。
- 転職市場は、圧倒的に買い手有利となる。
- 普段の準備→動き出しの早さがポイント。
- エージェントと自分の力、両方使って備えておく。
- 常勤医は簡単には解雇できない。
最近では、本当に急激な離職・退職が起こりやすくなっていると感じます。
ブログやSNSの発達によって、転職に関するノウハウが簡単に手に入るようになっています。また医師転職エージェント会社も多数あり、競争の中でどんどん便利になっています。
「現状維持をしたい」というのもよくわかりますが、「おや?」と感じた段階で、少しずつ準備を始めておくことをおすすめします。
さて、今回は以上です。この記事が参考になりましたら幸いです。
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