今回はこんなテーマです。
医師として生きていくうえで、無視できない医局制度。
その恩恵を受けたり、不自由に感じたり。医局に対して、複雑な思いを持っている人も多いのではないでしょうか。
医局の中と外の両方で働き、転職活動もした経験を元に、そんな医局制度の未来について考えていきたいと思います。
この記事の流れ
- 衰退しないと思う要素
- 衰退すると思う要素
- 現実的な予測
- そもそも医局が衰退したら医師は幸せになるか
では、行きましょう!
衰退しないと思う要素
入局者の推移
初期研修終了時点でのアンケートにて、入局を予定している割合は79.3 %(平成31年)とのことでした。
それ以前を振り返ると、73.7(27年)、74.2 %(28年)、76.8 %(29年)、77.9 %(30年) と、増加傾向にあることが分かります。
さらに残りの2割程度に関しても、入局しないが約1割、わからない・決めていない・無回答が約1割となっています。
医局と関連病院の関係
医局制度と切っても切れないのが、関連病院の話です。
関連病院の経営は、医局から医師が安定的に提供され、適度に異動させてくれるという制度の恩恵を受けています。
通常であれば医師が来にくい地域でも、それほど給料を高く設定することなく医師を呼ぶことができます。
欠員が出ても、補充や代理が用意されるため、抱えておく人員が最小限で済みます。
異動で医師が入れ替われば、ボーナスは1回分支払う必要がなくなります(支給日に勤務していなければ払う必要がない)。
医局員の勤務先が落ち着くのは40代半ば~遅ければ50代なので、病院が支払う退職金はかなり低く抑えることができます。
こういった事情から、関連病院としても医局制度を維持するために全力を尽くすでしょう。
病院数が減っていく可能性
現在日本の病院はどこも経営が楽ではなく、統合によって病院を少なくするという流れになっています。
実際に厚労省は、全国の公立病院の3分の1に「統廃合を含めた再編の検討を求める」という方針を発表しています。
こうして医療の集約が進んでいくと、医局としては少しの病院を押さえることで、勢力を維持することができます。これは医局制度にとって、追い風となりそうです。
新専門医制度
新専門医制度ができ、基幹病院として専攻医を採用する病院のハードルが上がりました。
市中病院のプログラムであっても、その市中病院自体がいずれかの医局の関連病院で、入局とイコールという場合も少なくありません。
実際、「初期研修終了後に市中病院で働く医師」のうち、入局しないと回答した割合は全体の1/4程度にとどまります。
衰退すると思う要素
もし医局が衰退していくとしたら、下記の2つの要素からでしょう。
医師が医局を辞める
上でも書いたような医局や病院にとってのメリットは、そのまま医師個人が負担しているのが現状です。
具体的なデメリットは下記の通りです。
① 人事異動がつらい
② 何かとお金がかかる
③ 相場より安く働かなければならない時も
④ 自分のキャリアが他人任せになる
⑤ 他人の人生の影響を受ける
医局に入るデメリット5選【元医局員が語る】
実際、医局に対して不満をもっている医局員もいるはずです。
昔よりは、医局を辞める、転職をすることに関して情報を得やすくなっており、また転職エージェントをはじめとする転職のシステムもかなり充実しています。
どれだけ若手が医局に入っても、技術と資格を手にした医師から医局を離れていき、中堅以降が人手不足になるという状況はあり得るでしょう。
医局制度の本質は人員の派遣なので、人員がいなくなれば衰退は避けられません。
大学病院の労働条件が維持できなくなる
働き方改革など
大学病院の労働条件は、正直なところ良くありません。大学病院から受け取る給料は相場の半分程度で、残りをアルバイトで補うという仕様になっています。無給医(大学院生)や、それに近い条件で働く医師もいます。
研究や教育活動、その他医局の雑用など、実際の労働時間に則した給料が支払われているとは言いにくいのが現状です。
大学病院の経営や成果は、個人個人の過重労働+ボランティアで支えられているシステムです。
こういった事情は、現在進められている医師の働き方改革とは親和性が悪い話になります。
アルバイトの減少
新型コロナウィルス感染症の影響で、アルバイト先も経営が悪化し、「アルバイトの受け入れを減らす、止める」という病院も出てきています。
そして
・大学からのアルバイトの受け入れを減らしても仕事が回ること
・それを削ることによる財政上のメリット
を、病院側も実感したはずです。
アルバイトは大学病院医師の生命線であり、医局は何としても維持しようとします。しかしアルバイト先の病院としても経営が危険な状態になれば、維持は難しいでしょう。
大学病院の経営悪化
医師たちの身を切る努力にもかかわらず、大学病院の経営は苦しく、さらに国からの補助金である運営費交付金は年々減額されています。
ニュースにもなった某大学病院も、経営難によってただでさえ厳しい待遇すら維持できなくなり、大量離職につながりました。
・働き方改革
・アルバイトの減少
・大学病院の経営悪化
これらの事情から、大学病院医師を維持できなくなくなると、厳しい状態になります。
1人、2人と辞めていくなかで、さらに労働条件が悪化し、最終的にその医局は崩壊へと向かうでしょう。
現実的な予測
さて、医局制度が衰退しなさそうな要素、衰退しそうな要素をみてきました。
では実際のところ医局制度はどうなっていくのでしょうか。予測しては下記の通りです。
・局所的に崩壊する医局は出てくる
・全体としてはある程度衰退し、プラトーに達する
局所的に崩壊する医局は出てくる
これまではどの大学、どの県にもすべての科の医局が揃っていました。どんな医局運営をしても、それなりに存続できていたわけです。
ただこれからはそうはいかず、かなり気を遣って運営していかなければ個々の医局として崩壊していきます。
・大学病院の労働条件を悪化させない
・医局員の待遇を最優先にした運営をする
このあたりが存続の鍵となりそうです。
全体としては、ある程度衰退しプラトーに達する
まず入局者は高止まりするでしょう。若手医師の教育と医局の親和性や、制度設計を考慮してもこの傾向は変わらないと思われます。
市中病院側も、医局制度の存続に全力を尽くすはずです。
一方で、中堅以降の医師を引き止めるのは難しい課題です。どれだけ「医局員が働きやすい」というテーマを掲げても、制度上「個人の負担を医局外と同等にする」ことは困難です。
ただ中堅以降の医師のすべてが医局を辞めるわけではなく、
・医局内の仕事にやりがいを見出す人
・事情があって辞められない人
・不満があっても辞めない人
というのは、必ず一定数います。
結果
「全体としては多数の若手と、やや人員不足の中堅以降で維持できる勢力圏でプラトーに達する」
というのが妥当なところではないでしょうか。
そもそも医局制度がなくなったら幸せなのか
医局制度について、ネガティブな意見をもっている医師も少なからずいます。
ただ医局制度がなくなればそういった医師がみんな幸せになれるかというと、そうではないと思います。
主な要素は下記の通りです。
ポストの争奪戦
医局が割り振っていたポストが自由化すれば、ポストの争奪戦となります。
これは医局人事の影響を受けたり、転職活動をしている中で感じたことなのですが、皆が働きたいポストはかなり似通っています。
圧倒的多数の医師が、便利な都市部(地方の県庁所在地周辺を含めて)、人員が充実している病院、給料の良い病院で働きたいと考えています。そういった病院は競合し、すぐに転職市場から消えていきます。
競合が起これば、条件の良い病院で働くのは難しくなります。
医局が崩壊し多数の医師が市場に流入した時の転職活動は、かなり過酷なものになるでしょう。
また医局人事であれば素通しであった就職審査も、かなり厳しいものになるはずです。
これまでは、仮に問題があっても医局が引き取ってくれるという前提での採用が行われていました。しかし医局がなくなれば、簡単には解雇できなくなります。
バイトの値崩れ
争奪戦という意味では、アルバイトも同様でしょう。これまで医局の規則や忙しい病院に縛られて自由にアルバイトができなかった医師がアルバイト市場に流れ込みます。
条件のいいものは争奪戦になるでしょうし、需要と供給の関係から値崩れも起こるかもしれません。
まとめ
医局制度が衰退するのかということについて、まとめました。
この記事の結論としては、
・局所的に崩壊する医局は出てくる
・全体としてはある程度衰退し、プラトーに達する
です。
自然に医局制度が崩壊して自由/幸せになれるわけではなく、かといって医局が復権して医局外では生きていけなくなるということもないでしょう。
今回は以上です。
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