こんな疑問に答えます。
この記事を書いている僕は、医局員として約8年過ごしました、その後退局・転職を経て現在に至ります。
医局に入るかどうか。これは若手医師の多くが経験する悩みですね。
今回は「医局に入らないで困ること」というテーマで、医局内・外両方で働いた経験を元に解説していきます。
この記事を読むと分かること
- 医局に入らないで困ること
- 迷ったときの考え方と対策
では、行きましょう!
① 科や地域によってはポストが限られる
まだまだ医局の力は大きい
近年、医局制度の衰退/崩壊という言葉が聞かれることもありますが、若手のポストという意味では、まずまず勢力を維持しています。
入局者の割合は、下記の通り。
平成31年研修修了者全体のうち
・入局予定:79.3 %
・入局する予定なし:11.5 %
・わからない/決めてない/無回答:9.3 %
さらに同調査をさかのぼると、若手の入局予定者は、増加傾向にあることが分かります。
・73.7 % (H27)、74.2 % (H28)、76.8 % (H29)、77.9 % (H30)
参照元:臨床研修修了者アンケート調査結果
専攻医プログラム
ここからは若手のポストという観点で、具体的にみていきましょう。
まずは新専門医制度についてです。
科(領域)ごとに、基幹病院となっている市中病院/大学病院の数や、大学のプログラム以外選択肢がない県の数をまとめました。
市中 | 大学 | 大学のみ県 | 専攻医数 | |
内科 | 497 | 106 | 0 | 1位 |
精神 | 133 | 86 | 2 | 5位 |
外科 | 137 | 94 | 8 | 2位 |
眼科 | 16 | 92 | 37 | 8位 |
耳鼻 | 13 | 87 | 37 | 12位 |
放射 | 26 | 88 | 34 | 14位 |
リハ | 9 | 77 | 38 | 18位 |
(市中:基幹病院が市中病院のプログラム数、大学:基幹病院が大学病院かその附属病院のプログラム数、大学のみ県:大学プログラムしかない県の数、専攻医数:専攻医が多い順に1-19位)
傾向として、専攻医が多い科は、市中病院プログラムも多く、大学以外に選択肢がある県も多いようです。
しかし専攻医が中~少ない科は、市中病院プログラムの占める割合がぐっと減ります。そもそも大学しか選択肢がない県も、かなりあります(主に地方)。
ちなみに大学のプログラムは、ほぼ入局とイコールです。
また市中病院であっても、その多くは医局の関連病院であり、入局を義務付けるかは「医局と病院の考え方次第」となります。
(初期研修終了後)大学病院以外での勤務を希望する研修医のうち
・入局予定:54.6 %
・入局する予定なし:26.8 %
・わからない/決めてない/無回答:18.6 %
参照元:臨床研修修了者アンケート調査結果
こんなデータもあり、市中病院プログラムであっても、入局を避けられるのは約半分か、あるいはそれ以下と予想されます(これはあくまで予想)。
専門医受験資格取得後のポスト
専攻医の雇用契約は、通常は専門医試験の受験資格取得までのようです(3-5年間)。
基幹病院は医局の関連病院である可能性が高く、専攻医期間は入局が免除されたとしても、その後はスタッフになることはできません。
このため医局に入らないのであれば、専攻医期間中から転職活動をしなくてはなりません。
専門医資格が取れるのは専攻医修了後なので、「専門医取得見込み」として転職活動をすることになります。
中~大規模病院での勤務
専門医資格を取得してから、もうしばらく中~大規模病院で働きたいと思う人も多いのではないでしょうか。
地域や科にもよりますが、中~大規模の病院は医局の関連であることが多いです。
入局不要の中~大規模病院が、「ない」わけではありません。ただ数は限られるため、勤務地や雇用条件、経験できる症例などを「自由に選ぶ」というのは難しくなります。
この項のまとめ
・専攻医が多い科や都市部は、医局外にも若手のポストが多い
・専攻医が少ない科や地方は、医局外に若手のポストが少ない
志望科や居住地域によって、受ける影響(=医局を避けるために支払うコスト)は人それぞれです。
ポイント
医局はある意味で不自由な組織ですが、少なくとも若手のうちは「医局に入らなかったら自由!」というわけでもなさそうです。
② 多くの病院で働く経験をしにくい
多くの病院で働くメリット
人事異動というのはなかなか負担であり、医局のデメリットとして常に挙げられます。
ただ多彩な環境を経験できることに、メリットがあるのも、また事実です。
多くの病院を渡り歩くメリットは、こちらです。
・多彩な病院での経験を積める
・頼れる人が増える
・いろいろなマネジメントを学べる
・人間関係で煮詰まりにくい
・いろいろな土地で住める
医局人事で異動をするメリット6選【元医局員が解説】
「医局人事による異動」と「自分の意志での転職」の違い
医局に入らなくとも、自らの意志で多くの病院を経験することは可能です。ただ「医局人事」か「自らの意志」かには、違いがあります。
まず自らの意志で行う場合、転職活動の手間がかかります。
また、「自ら病院を転々としている医師」という経歴(履歴書)になります。
これをどう捉えるかは病院次第です。
ちなみに僕が転職活動で面接を受けた時は、どの病院も「勤務した病院数」は気にしていたようで、質問を受けました。
③ 自然にできる経験に差がある(かも)
経験へのアクセス
ここからは、少し抽象的な話で、反対意見もあるかもしれません。
ただ、医局にいるかどうかで
・多くの人の指導を受ける
・世界の第一線で活躍する人と仕事をする
・頻度の低い症例/手技をまとまった数、経験する
・学術的なところまで、1つの領域を探求する
こんな経験に、差がでる可能性があります。
ただ、
・あるところにはあるけれど、自分で手を伸ばさなければつかめない
・日常として存在し、身の回りで経験できる
この2つには、経験へのアクセスのしやすさという点で違いがあると思うのです。
コスパの悪い努力
医局にいると「あれやってみなさい」「これやってみれば」と、仕事やキャリアに関して指示されることが多いです。
その中には雑用もありますが、中長期的にみると役に立つものもあります。
短期的にはコスパが悪いけれど(すぐに役に立つ知識や経験でなくとも)10年後に役に立つかも、という仕事は自ら進んではしにくいです。
パック売りかDIYか
この項のまとめはこちらです。
・医局に所属するには金銭、時間、自由などコストがかかる
・かわりに、経験へのアクセスのしやすさが手に入る
・一見面倒な仕事をするよう、指示される環境が手に入る
医局内か医局外かというのは、パック売りかDIYかというイメージを僕は持っています。
自ら必要な経験をとりに行く、自ら多くの人と交流をもつ。こんな人にとって医局は、割高なパック売りであり、コスパが悪い選択かもしれません。
逆に自分から行動するのは面倒、目先の仕事で手一杯(キャリア設計の余裕がない)、あるいは人見知りという人は、経験の差ができてしまうかもしれません。
・医局に入るか迷ったら
ここまで、医局に入らないデメリットを解説してきました。
そもそも
・一生医局員でいる。
・一生医局員にならない。
こんな決心をする必要はないと思います。
ここからは
そんな人のための対策を考えていきましょう。
【対策①】辞めることも視野に入局する
1つ目は「辞めることも視野に、入局する」です。
「専門医資格取得まで」、「日常業務が一通りできるようになるまで」と期限を区切って入局するパターンですね。
医局は不自由、不条理も多いですが、経験を積むための修行期間と割り切れるのであればありだと思います。
ただこの選択をする場合は、
・医局外でも専門性が活かせる領域か
・医局の上層部が温厚か
という視点は、重要です。
大~中規模の病院でしか専門性が発揮しにくい場合は、医局を離れにくくなります(これは、一旦医局に入るか否かにかかわらず、持っておきたい視点です)。
また医局を離れる時の苦労は、医局上層部の考え方/人柄によるところが大きいです。
【対策②】とりあえず入局せずにやってみる
2つ目は「とりあえず入局はしない」という選択です。
医局フリーで、できるところまで働いてみて、不都合があれば入局をするというパターンですね。
もともと医局を避けるコストがあまりかからない進路(地域や科など)であれば、こちらも失敗の少ない選択だと思います。
途中入局だからといって冷遇されるというのは少ないようです(僕が見聞きした限りでは)。
元医局員が途中入局について解説してみた
・転職エージェントへの相談がおすすめ
自分のキャリアを自分で描いていきたいなら、転職エージェントに登録し、関わりをもっておくことをおすすめします。
入局しない場合
入局をしていない場合は専攻医が終わるタイミングで、転職をするか、医局に入るかの選択をすることになります。
忙しく働きながら、転職活動をするのは大変です。
エージェントに登録すると
・エージェントから提示された多数の候補病院
・医局から提示された病院
これらの条件を具体的に比較し、決断することができます。
入局する場合
一旦入局をする場合も、エージェントと関わっておくメリットは多いです。
・常に自分の市場価値を把握しておき、医局内の待遇と比較できる
・医局が合わなかった時、思い詰めずにすむ
・転職市場で求められる資格や経験を意識して、成長していける
転職エージェントへのキャリア相談がおすすめ。研修医・専攻医もOK。
・まとめ
「医局に入らないで困ること」というテーマで解説してきました。
この記事のポイント
- 地域や志望科によっては、医局を避けにくい
- 医局外では、様々な病院で働く経験をしにくい
- 経験、人脈を自ら取りにいけなければ、経験に差が出るかも
- いつか辞めることも視野に、入局するのはあり
- とりあえず入局せず、やってみるのもあり
- 転職エージェントは、主体的なキャリア形成に役立つ
「どちらかを選んだら一生そのまま」というわけではなく、自分に合っていない、メリットがなくなったと思えば、もう一方に移ることができます。今の自分が好きな方を選んで、問題はないと思いますよ。
さて、今回は以上です。