こんにちは、コアライ ミナトです。医師のキャリアについてのブログを書いています。
今回のテーマは、「専門医資格の更新基準」です。
多くの医師は進路を決めるときに、
・興味関心
・勤務時間や給料などの待遇面
・専門医資格の取得難易度
などを参考にするのではないでしょうか。
これらと同じくらい「資格を維持していけるか」というのは重要であるにも関わらず、僕自身は資格を取得してから更新基準を確認しました。
運良く僕が取得した専門医資格には、希望するキャリアを妨げるような更新基準はありませんでしたが、領域ごとに更新の難易度は異なっており、「ここは厳しい」と感じるものもありました。
そこで今回は基礎19領域について、2022年4月時点の専門医資格の更新基準を、比較・考察してみました。
更新基準の概要
まずは専門医更新の全体像について、簡単に解説します。
学会専門医・機構専門医
以前までは各学会が主体となって専門医を認定していたわけですが(学会専門医)、移行期間を経て、今後は日本専門医機構が認定を行っていくことになります(機構専門医)。
基礎19領域
専門医資格は下の図の通り、基礎19領域とサブスペシャルティ領域の、2段階制となっています。
画像引用元:医道審議会医師分科会医師専門研修部会平成30年度第5回資料1
共通する更新基準
細かい更新基準は各領域で異なりますが、大枠は共通しています。更新は5年ごとで、その期間に下記の基準を満たす必要があります。
1. 勤務実態の自己申告
2. 診療実績の証明
3. 更新単位の取得
「勤務実態」は、その領域(科)の業務に従事している時間を申告するものです。「週に○時間以上」という基準が示されている領域と、「申告はあるけれど、明確な基準はない」という領域があります。
「診療実績」は、多くは「その科の症例を、○例経験し記録を提出する」というものです。症例数や経験をするハードルの高さによって、難易度が異なります。試験などで代用できる領域もあります。
「更新単位」は学会参加や研究活動、上で書いた「診療実績の証明」などで必要な単位数を集めるというものです。
学会参加(更新単位集め)については、オンラインで参加できるものも増えており、がんばって参加さえしていれば、更新の妨げになる可能性は低いのではないでしょうか。
つまり特にチェックすべきなのは、下の2点です。
・勤務実態:最低勤務時間の規定
・診療実績:症例経験の数とハードル
領域ごとの更新基準
内科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。「週に○時間以上、従事していなければならない」という、最低勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
内科の「診療実績の証明」は少し変わっていて、「毎年1回行われる試験に少なくとも1回合格すること」となっています。試験と言ってもセルフトレーニング問題で、web版と郵送によるマークシート版があります。
こうなっている理由は、下記のように説明されています。
内科領域では、診療を専らに行う医師も、あるいは地域の保健衛生に関与する医師も等しく専門医資格をもって活動しています。したがって内科専門医の診療実績とは、単なる経験症例記載だけではその活動実績や診療能力を担保できません。
更新基準の詳細はこちら。
小児科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
5年間で診療した100症例について申告します。乳幼児健診・予防接種事業も半日程度につき、1例分とみなすことができます。
更新基準の詳細はこちら。
小児科のような、
・最低勤務時間の規定がない、勤務実態の申告
・(手術以外の)50~100例程度の症例経験の申告
をベースラインとして比較をしていくと、わかりやすいと思います。
皮膚科
勤務実態
5年間の更新期間のうち、その半分である累計2.5年以上の勤務実態を申告します。また具体的な時間が示されています。
常勤:皮膚科診療に従事している時間が週31時間以上
非常勤:皮膚科診療に従事している時間が週12時間以上週31時間未満
そして非常勤の場合は、下の2つを満たす必要があります。
・皮膚科の診療に従事していることを証明できるものを添付する。
・日本皮膚科学会代議員または皮膚科研修期間施設のプログラム統括責任者の証明を受ける。
診療実績
初回の更新のみ、10例分の診療実績が必要です。診療日、病名、検査、治療法、転帰、問題点、診療施設名、責任者氏名(印)などを記載した症例報告を提出します。
・入院、外来は問わない。
・疾患名は偏らないように。
・皮膚科専門医研修カリキュラムに記載された 35 領域のうち複数領域にわたるように。
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精神科
勤務実態
5年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
5例分の臨床経験レポートを提出します。診療日時、病名、治療法、転帰、診療施設名、責任者氏名(印)などを記載します(1000字~1200字)。
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外科
勤務実態
勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
100例以上の手術に従事する必要があります(手術の内容:「外科専門医修練カリキュラム」内の「参考手術手技一覧」に準ずる)。
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整形外科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
手術施行例、あるいは保存療法施行例100例分の、症例一覧表を提出します。
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産婦人科
産婦人科の詳細な更新基準は公開されていないようで、「会員専用ページ」のみで読むことができます。
調査をすればわかるはずですが、公式が非公開としているため、この記事では「不明」とします。
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眼科
勤務実態
専門医認定日から5年間以上、「眼科臨床経験」を有することを大学眼科主任教授もしくはこれに準ずる者、または日本眼科医会会長に証明してもらう必要があります。
「眼科臨床経験」の基準は、週4日以上の勤務とされています。
診療実績
基準はなさそうです。
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耳鼻咽喉科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
耳鼻咽喉科疾患症例200例分の診療実績が必要です。診療日時、患者 ID、性、年齢、病名分類、病名、検査、処置、所見、手術の有無、治療法、転帰、診療施設名、責任者氏名(印)を提出します。
・200例(1症例/週、毎年40症例を5 年分)
・原則として5年間で、それぞれ最低10症例以上
という記載がみられ、絶対ではないものの「ある程度継続した耳鼻科診療」が期待されている印象です。
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泌尿器科
勤務実態
勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
・NCD登録症例証:10例で1単位
・手術症例:10例で1単位
・症例:1領域10例で1単位
3つの任意の組み合わせで、合計10単位が求められます。ざっくり100例ですね。
「症例」については、以下の7領域があって…
①尿路性器感染症 ②下部尿路機能障害 ③尿路性器腫瘍 ④尿路結石症 ⑤慢性腎不全 ⑥小児泌尿器科疾患 ⑦不妊・アンドロロジー
・尿路性器感染症10例 →1単位になる
・尿路性器感染症8例+慢性腎不全2例 →1単位にならない
・尿路感染症30例→3単位になる
というルールとなっています。
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脳神経外科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
・手術症例10症例で1単位
・非手術症例20症例で1単位
・SANS(Self Assessment in Neurological Surgery=自己学習)1冊/年で1単位。冊子の問題に解答し、解答用紙を学会へ提出。正答率6割で単位認定。
合計で最小6単位が求められます。
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放射線科
勤務実態
勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
確認した限り、診療実績の証明は求められていないようでした(学会等の参加のみ)。
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麻酔科
勤務実態
麻酔科関連業務に、単一の病院で、専従をしている必要があります。
麻酔科関連業務は以下の通りです。
・周術期における麻酔管理に関する臨床または研究
・疼痛管理に関する臨床または研究
・集中治療部、救急施設等における重症患者の管理に関する臨床または研究
専従とは上記の麻酔科関連業務に、週3日以上携わっていることを指します。
診療実績
麻酔症例:1例で0.02単位
ペインクリニック・入院患者疼痛管理・緩和ケア担当症例:1例で0.1単位
集中治療担当症例:1例で0.1単位
救急医療担当症例:1例につき0.1単位
合計で最小5単位が求められます。
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病理
病理の詳細な更新基準は公開されていないようで、「会員専用ページ」のみで読むことができます。
調査をすればわかるはずですが、公式が非公開としているため、この記事では「不明」とします。
更新基準の詳細はこちら。
臨床検査
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
・担当した症例の診断報告書:1例で0.2単位
・検査部門管理記録:1例で0.2単位
・コンサルテーション記録:1例で0.3単位
合計で最小5単位が求められます。
診療実績の証明は、以下でも代用可能です。
・臨床検査専門医認定試験の筆記試験に合格
・e-learning システム(整備中)の更新用試験に合格
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救急科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
以下の2つのうち、いずれかを満たす必要があります。
・救急診療活動の提示:救急搬送、あるいは集中治療管理症例、100例分を提示します(診療日時、年齢、性別、病名、治療法、診療施設名、責任者氏名)。
・能力判定試験(E-test)の合格:「ネット上で何回でも受験できるようにする予定」とのことです。
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形成外科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
以下の2つを合わせて、100例の一覧表を提出します。
・術者あるいは指導者として執刀した症例を手術症例
・診療した症例
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リハビリテーション科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。「週4日32時間以上」という基準が示されています。ただし、
・育児・介護等の理由があれば、週4日30時間以上を基準とする。
・基準を満たさない場合でも、「診療実績の証明」を満たせば更新できる。
とされています。
診療実績
入院あるいは外来症例、100例分を提示します(診療開始日、年齢、性別、主診断名、主障害名、診療施設名、領域番号、担当医/指導医(いずれかを選択)、責任者氏名(印))。
以下の9領域のうち、少なくとも3領域を含める必要があります。
①脳血管障害・頭部外傷など ②運動器疾患・外傷 ③外傷性脊髄損傷 ④神経筋疾患 ⑤切断 ⑥小児疾患 ⑦リウマチ性疾患 ⑧内部障害 ⑨その他
更新基準の詳細はこちら。
総合診療科
勤務実態
直近1年間の実態を申告します。勤務時間の規定は示されていません。
診療実績
「7つの資質・能力」について、1領域あたり2症例、合計14症例を報告します。
7つの資質・能力は以下の通り。
①包括的統合アプローチ ②一般的な健康問題に対する診療能力 ③患者中心の医療・ケア ④連携重視のマネジメント ⑤地域包括ケアを含む地域志向アプローチ ⑥公益に資する職業規範 ⑦多様な診療の場に対応する能力
さらに総合診療科では、「多様な地域における診療実績」という項目の記載があります。この点は次の項で、詳しく解説します。
更新基準の詳細はこちら。
多様な地域における診療実績
日本では医師偏在、へき地の医師不足が深刻な問題となっています。政府や専門医機構としては「へき地勤務を専門医資格の更新条件とすることで、この問題を解決したい」という思惑があるようです。
実際2021年の春頃には「へき地勤務義務化」について議論がなされました。あまりに大きな反発があったため「義務化」は取り下げとなりましたが、完全に断念されたとは言い難い状況です。
この件の詳細はこちら。
「専門医更新のための僻地勤務義務化騒動」の総括と、得られた教訓
その後の2021年8月の発表にも、
少なくとも3回目の更新時(おおむね15年間)までには1年間の地域医療への参加をすることにより自己研鑽を積むことを期待する。
という文章で残されています。
これを反映する形で、総合診療科の更新要件の1つとして、「多様な地域における診療実績」が挙げられ、
生涯教育の一環として、更新1期目までに1年間の多様な地域における診療実績が望ましい。
との記載もみられます。各領域の更新基準を確認しましたが、この「多様な地域における診療実績」について記載されているのは総合診療科のみでした。
この点が、個人的に少し気になってはいます。今後、他の科でも記載される可能性もあるので、注視していきたいと思います。
まとめ
各領域の専門医更新の基準をまとめました。横並びで比較することによって、領域(学会)ごとの方針の違いを感じられるのではないでしょうか。
個人的な感想として、
・勤務時間の規定がある領域(偉い人の証明が必要な領域)
・診療実績のハードルが高い領域
・「多様な地域における診療実績」の記載がある領域
は、他と比べて「厳格にやっていきたいのかな?」という雰囲気を感じました。
ただし現時点では、
・専門領域の常勤医として働いていくならば、問題ない
・非常勤でも、その専門領域の診療を継続している限り、多くの領域で問題なさそう
・専門領域を離れた非常勤や、長期の休職があると厳しいかも
という程度です。さらに活動休止期間の申請や更新猶予、資格の再取得など、領域ごとに一定の配慮はされています。
さて今回の内容は、ここまでです。価値観などと合わせ、将来を考える材料の1つにしていただけたら幸いです。