今回はこんな疑問に答えます。
この記事を書いている僕は、医師になって約10年。
・進路に悩んだり
・医局に入ったり
・医局を辞めて転職をしたり
・いろんな医師のキャリアを眺めたり
・相談をしたり、されたり
といったことを経て、現在は医師として働きながらブログを書いています。
志望科や働く場所を決めるときって、めちゃくちゃ迷いますよね。「一生を決めてしまう」とまではいいませんが、大きな決断であることは確かです。
そんな方のために、「10年前の自分が知っておきたかった情報」をまとめてみました。
主観に偏りすぎず、できる限り根拠をもって解説したいと思います。
では、いきましょう!
① 科によっての違い
まずは数値化しやすいところから、みていきましょう。科や専門分野によって、実現しやすい生活や労働条件に違いがあります。
労働時間
下記は、全科の平均勤務時間を1とした時、それぞれの科の平均勤務時間がどれくらいかを示した表です。
診療科 | 内科 | 小児 | 皮膚 | 精神 | 外科 | 整形 |
平均比 | 0.99 | 1.01 | 0.85 | 0.91 | 1.14 | 1.00 |
診療科 | 産婦 | 眼科 | 耳鼻 | 泌尿 | 脳外 | 放射 |
平均比 | 1.04 | 0.85 | 0.89 | 1.09 | 1.13 | 0.99 |
診療科 | 麻酔 | 病理 | 臨検 | 救急 | 形成 | リハ |
平均比 | 1.01 | 1.06 | 0.95 | 1.21 | 1.02 | 0.92 |
引用元:医療従事者の需給に関する検討会 第28回 医師需給分科会 参考資料5
給料
科ごとの平均的な年収は、下の通りです(変なまとめ方をされているところもありますが...)。
単位:万円
脳外科 | 1480.3 | 産婦人科 | 1466.3 |
外科 | 1347.2 | 麻酔科 | 1335.2 |
整形外科 | 1289.9 | 呼吸・消化・循環 | 1267.2 |
内科 | 1247.4 | 精神科 | 1230.2 |
小児科 | 1220.5 | 救急科 | 1215.3 |
放射線科 | 1103.3 | 眼・耳鼻・泌尿器・皮膚 | 1078.7 |
参照元:マイナビドクター ホームページ
高給な科とそうでない科では、数百万円程度の差になることが分かります。
ちなみにこういった収入ランキングをみるとき、注意したい点は下記の3点です。
・統計によって、順位が入れ替わることがよくある。
・平均値なので、地域や雇用形態でばらつきが大きい。
・高給であることは、単に長時間労働の結果かもしれない。
(時給が高いとは限らないので、労働時間との比較が必要)
こんな理由から、参考程度としたほうがいいとも思います。
生存率
科ごとの生存率、つまり「何%が転科・引退・ドロップアウトをすることなく続けられるか」を示すデータも紹介します。
・長く続けたいと感じるかどうか
・実際に長期間続けられるかどうか
は、ある程度「働きやすさ」を反映していると思います。
グラフが細かすぎるので解説すると、男性医師での傾向は下記の通り。
・リハビリテーション科・精神科・内科は長く続けやすい。
・救急科・形成外科・麻酔科は離れてしまう人も多い。
・救急科・小児科は、初期に離れてしまう人が目立つ。
女性医師の傾向は、下記の通り。
・続けやすいかどうかが、2極化している。
・内科・眼科・精神科・小児科・耳鼻科・皮膚科が長く続けやすい。
・救急科・泌尿器科・臨床検査科は早期に離れてしまう人も多い。
参照元:医療従事者の需給に関する検討会 第29回医師需給分科会参考資料
「科ごとの忙しさランキング」みたいなものを作るのは、正直難しいです。
かわりにこういった、公的な機関が出している「労働時間」や「生存率」などのデータをみて、雰囲気を掴んでもらえたらと思います。
② 修行期間はどこもハード
上で書いたとおり、科によって労働・生活面での傾向には違いがあります。とはいえ修行期間は、どこの科もハードです。
例えば下のグラフは、残業時間が年間1860時間を超える医師の割合を、科ごとに表したものです。
参照元:第9回医師の働き方改革の推進に関する検討会 参考資料3
外科医、脳外科医、救急科医が多いのはイメージ通りですが、「卒後3~5年目の専攻医(全科)」も、それと同程度に忙しいことがうかがえると思います。
やりがい(楽しさ・興味)か、QOLか
これは進路を決める上で究極の選択だとは思いますが、「QOL」を選んでも修行期間は同じように大変です(QOLを実感するのは、しばらく先)。
修行期間を乗り切れるくらいの、やりがい(楽しさ・興味)は最低限必要かなと思います。
そして決断をしたあとは、「QOL重視で選んだこと」を忘れるのをおすすめします。
※ちなみに1860時間以上の残業は、働き方改革によって2024年から禁止されるので、現状より改善することは期待できます。
③ 修行期間をどう過ごすか
「若手の期間を、どのように過ごすか」ということについてです。
色々試した結果、
・修行期間であることを意識して、やっぱり頑張ったほうが良い。
・ただし、自分が頑張ったと思える範囲で。
というのが、僕の結論です。
仕事に費やす時間は、どうしても人生のかなりの部分を占めることになります。
努力不足で、不安や引け目を感じながら働いていると、仕事がよりつらいものになってしまいます。仕事以外の時間にもそれを引きずってしまうこともあるでしょう。
ただし、そもそも医師の世界は厳しい世界です。「普通の医師」が、すでに過労といえるレベルに達しています。
参照元:第9回医師の働き方改革の推進に関する検討会 参考資料3
「人と比べて」頑張っていると思えるほどの努力してしまうと、そのラインを軽く超えてしまいます。あくまでも【自分ができる精一杯】を目指していくことを、おすすめします。
④ 10年を一区切りに
こんな疑問に対して、1つの答えをくれるデータを紹介します。「医師歴何年目で、自分のことを医師として一人前と感じるようになったか」という、アンケートの結果です。
~5年:2.6 %
5~10年:18.6 %
10~15年:26.1 %
15~20年:7.7 %
20年以上:5.3 %
まだ「一人前」になったと感じていない:39.7 %
参照元:医師転職研究所
「まだ一人前でない」というストイックな意見はさておき、どこかで一人前になるとすれば、【10年前後】というのが1つの区切りということになります。
このあたりから、「自分を主体にキャリアを動かしていける時期」に入っていきます(好きな条件を選べる立場になります)。
早すぎると、「もうしばらく修行ができるポストで」「未経験~半人前でもつけるポストで」などの制約が、かかってしまいます。
このように「ここから先は、自分の好きに生きる」というラインは、意識しておきたいものです。修行期間を乗り切るためにも、その後の人生で後悔しないためにも。
一人前になった後の期間は、キャリアプランにおいて「経済的回収期」とも呼ばれたりしますが、経済面だけに留まりません。努力して育てた成果をきっちり収穫して、快適に過ごしたいですよね。
⑦ 価値観は変わる
価値観は変わる
「時間が経てば価値観は変わる」という前提で、計画をたてることをおすすめします。
体力は確実に落ちていきますし、家族との時間を重視したくなるかもしれません。職場の雰囲気も変わりますし、社会構造もきっと変わっていくでしょう。のんびり過ごすつもりが、のめり込める仕事をみつける人もいます。
未来の自分に選択肢を残してあげられるような選択を、心がけたいものです。
後戻りしにくい決断はリスク
時間とともに価値観は変わるということを踏まえると、「後戻りしにくい決断は、それだけでリスクである」と言えます。例えば、
・辞めにくい医局に入る
・医局外で働きにくい分野に進む
・ニッチな分野に進む
などです。
辞めにくい医局については、下の記事で書いています
入局してはいけない医局。そのたった1つの特徴とは
医局外で働きにくい進路というのは、例えば「大きな病院でないと専門性が活かしにくい(小さい病院ではあまり標榜していない)」科のことです。
ニッチな分野の面白さや、希少な技術に価値があることはよく分かりますし、そもそも「何がニッチか」の定義は難しいです。ただやはり働き口の選択肢が少ないのは、デメリットになりかねません。
⑧ 進路の変更はあり
いろいろと解説してきましたが、「全然思ったのと違った」「ついていけない」と感じたら、進路の変更は大いにありです。
例えば、転科ですね。僕の周りにも、転科して成功している医師がたくさんいます。こういった人をみていると、進路の変更は決して失敗ではないと感じます。
確かに新専門医制度によって、「転科した後、専門医資格を取得すること」のハードルが、上がってしまったのは事実です。
とはいえ専門医資格なしでもできる仕事も、多くあります(在宅、産業医、美容分野など)。入り口が未経験者OK、資格不要の分野でも、奥深さや、やりがいはあるはずです。
この話の詳細や根拠は、こちらのインタビュー記事で。
医師転職ドットコムを直接取材してみた~強み・評判・転職のトレンド~
転科まではいかず、「専門性を少しだけ変える」「働き方・働く場所を変える」ということであれば、イメージほど難しいことはありません(医師免許や医師としてのスキルの力ですね)。
ポイント
これを知った上で、「今の自分の心に正直に、チャレンジをすれば良い」と思います。
まとめ
進路に悩んでいる人に伝えたいことは、下の通りです。
ポイント
- 科によって生活の傾向に違いはある
- 修行期間はどこもハード
(自分なりに「頑張った」と思える程度に) - まず10年を一区切りに考える
- 時間とともに価値観は変わる
- 後戻りしにくい決断はリスク
- 進路の変更はあり
抽象的な話や個人的な考えも多かったですが、参考にしてもらえると幸いです。
具体的な情報を元に、将来についてきちんと考えたいのであれば、転職エージェントにキャリア相談をしてみるのもいいかもしれません。
・どの科の求人が多いのか
・どの地域で医局の力が強いのか
(入局必須でない求人がしっかりあるか)
・良い待遇を得られるのは、どの分野、どのスキルか
こんな情報がもらえれば、根拠をもって進路を決めることができるはずです。
「研修医も利用OK(相談だけでも)」と明言している転職エージェントは、下の3社です。
【医師転職ドットコム】(全科)
【美容医師求人ガイド】(美容分野特化)
この2社で保険診療、自由診療ともに、大体をカバーできると思います(いずれも無料で利用できます)。
さて、今回は以上です。