こんな疑問に答えます。
この記事を書いている僕は、どうにかこうにか大学院を卒業した元医局員です。
大学院はメリット・デメリットがわかりにくく、入るかどうか迷っている人も多いのではないでしょうか。
ここまでの熱意を持てない人に向けて、どうにかこうにか卒業したような医師の視点から、大学院について解説します。
この記事を読むと分かること
- 大学院に入るメリット・デメリット
- 医局という視点からみた、大学院の意味
- 入るかどうか迷ったときの考え方
では、行きましょう!
大学院に入るメリット
博士号が取れる
大学院を卒業すると、博士号が得られます。(教授を目指すなど)大学でポストを得て生きていくためには、博士号は必須です。
これ以外にも、規模の大きい病院では院長や部長になるには、博士号が必要となることがあります。
ただ博士号は医師免許や専門医資格と違って、肩書そのもので具体的なメリットが得られることは少ないです。
研究、発表の修行ができる
多くの医師にとって、大学院は本格的な研究に触れるはじめての機会です。もともと研究の道は考えていなかったにもかかわらず、大学院をきっかけに、そちらの道に進んだ人もいます。
「研究が好きだし、医学の発展に貢献することはやりがいがある」そうです。
ただ(学会)発表が上達することは、間違いないでしょう。大学院生は成果発表をする機会が多いですし、その道のプロに一から指導してもらうことができます。
立場が上がれば、後輩(部下)の発表を指導する機会が増えてきます。
一つの領域を深く理解できる
自ら研究を行い、学会で発表をしたり、論文を書いたりするためには、その領域について多くの知識が必要です。
卒業を目指す過程で、自分の専門分野を持つことができ、その領域を深くまで理解することにつながります。
僕自身は、大学院時代に研究を行った分野を今でも専門としていて、日々の診療に役立っています。
また1つの分野について深く掘り下げたことがあるという経験は、他の分野を勉強/研究するときにも応用できます。
のんびり過ごせる(かも?)
大学院の期間は、基本的に忙しいです(詳しくは次の「デメリット」の項で)。
ただ時期や医局の方針(研究だけに使える時間など)、研究内容によっては、のんびり過ごす時間がとれることもあります。
今日、すぐに、目の前の患者さんに対応しなくてはならない臨床の仕事とは違って、研究は中長期で形にするものです。
・一段落ついたから、ちょっと来週旅行に行こうかな。
・今日は起きるのが面倒なので、休みにしよう。
僕自身、こんな時期もありました(当然ずっとではありません)。
臨床の魅力を再確認できる
大学院に入ると、臨床から少し距離を置くことになります(期間や程度は、環境による)。この期間は臨床の魅力を再確認することにもつながります。
僕は、あまりにも研究に向いていなかったので、「早く、早く病院で働きたい…」という気分になりました。
現在の仕事に行き詰まりを感じているならば、大学院にいくことが気分を変えるきっかけになるかもしれません。
メリットのまとめ
博士号は
・次のステージに進むために必須
・転職や雇用条件に大きな影響を及ぼす
こういったものではありません。この点が医師免許や研修修了証、専門医資格とは異なります。
大学院(博士号)の主な価値は、証明書としてではなく、その過程で自分の中に蓄積する経験や知識です。ここにどれだけの価値を感じ、コストを支払えるかです。
大学院に入るデメリット
大学院に進むデメリットは、下記のとおりです。
金銭的負担がある
大学院そのものの費用として、入学料が30万円程度、学費が年間50-60万円程度かかります。また学術活動をしていると、学会費や交際費がかさみがちです。
大学院生としての給料は月に0-10万円台で、実質アルバイトで生計をたてるということになります。
アルバイトの回数や内容にもよりますが、一般的には同世代の勤務医と比較して収入は低くなりがちです。
時間/体力的負担がある
大学院の期間は、研究や講義を受けるという大学院生の仕事と並行して、大学病院の病院業務やアルバイトをしていくことになります。
医局や時期によりますが、労働時間は長く、体力的にも負担になることが多いでしょう。
臨床から離れる期間になる
大学院に進むのは、30歳代が多いはずです。
医師の30歳代というと、知識や技術面で大きく成長する時期ですし、それにともなって仕事を楽しく感じる時期でもあります。
臨床志向の強い人の中には、そのような時期に臨床を離れることで、焦りを感じるかもしれません。
どのくらい臨床を離れるかは、医局ごとに異なります。例えば下記のようなパターンがあります。
・大学病院業務と研究を同時にする2年。研究に集中できる2年。
・市中病院業務と研究を同時にする2年。研究に集中できる2年。
・研究のみを4年。
など。
医師の大学院生活について徹底解説
人事という側面も
ここまでは個人にとってのメリット・デメリットという視点で解説してきました。実際には、ここに医局の事情も絡んできます。
「医局に言われて大学院に」「医局としての決まりだから大学院に」。こんな人も多いのではないでしょうか。
実際、医師の大学院は
・個人が希望して入る学校という側面
・医局の人事という側面
この2つの意味があります。
つまり「研究は医局として必要な仕事なので、大学院生というポストにつくようにという人事」でもあるわけです。
個人の希望に委ねられるか、人事としてある程度の強制力を持つかは、それぞれの医局によります。
人事という側面が大きい場合は、メリットどうこうというよりも、「大学院は医局で修行を続けるための必要条件」となるわけです。
大学院に進む医師の割合
データ①
M3.comでみつけた、博士号取得率のデータです。
・50歳以上
取得済み:64 %
取得希望・準備中:0 %
興味はある:4 %
全く興味がない:29 %
わからない:3 %
・35歳以下
取得済み:9 %
取得希望・準備中:36 %
興味はある:21 %
全く興味がない:30 %
わからない:4 %
参照元:M3.com 医療維新
50歳以上の取得済みが64 %、35歳以下の取得済み+取得希望・準備中で45 %なので、おおまかに半分くらいかなと推測します。
データ②
脳神経外科速報という雑誌で、各脳外科医局の大学院進学率が示されていたので、紹介します。
・医局ごとの大学院進学率
0~20 %:3医局
21~40 %:2医局
41~60 %:4医局
61~80 %:8医局
81~100 %:16医局
平均:75.8 %
参照元:脳神経外科速報 2021.4 vol.31
脳外の医局に入っているうちの、3/4程度が大学院に進むようです。
そもそも医局に入る割合が、初期研修修了者全体のうち80 %くらいと言われているので(これは脳外志望者に限らず)(平成31年臨床研修修了者アンケート調査結果より)、
0.75×0.8=0.6
というわけで、このデータからは大学院の進学率を60 %くらいかと推測します。
大学院進学は半分くらい?
この2つの根拠から、
医師の大学院の進学率はざっくり半分くらいで、科や医局、世代によって上下するのではないか
と考えます。
大学院に入るかどうか
大学院に入りたい/どちらでもいいとき
まず「大学院に入りたい」と思ったら、ぜひ入るべきで、迷う必要はないです。
「どちらでも」という人も、特に問題にならないでしょう。医局の考え方や状況によって、「打診されれば大学院に」という流れになるでしょう。
経験という意味で、僕はメリットがあると思いますし、歓迎もされるでしょう。
大学院に入りたくないとき
問題になるのは、「本当は大学院に入りたくないけど、医局からの打診を断りにくいとき」です。ここまでみてきた通り大学院にはデメリットもあり、入りたくないのに入るには、あまりに負担が大きいです。
・どの程度、大学院に入りたくないか
・どの程度、医局に残りたいか
このあたりにもよりますが、明確に入りたくないのであれば、きちんと断ったほうがいいでしょう。
現在の制度では、大学院入学を考える時期には、専門医資格が取れている場合も多いはずです。
まとめ
医師が大学院に入るメリット・デメリットと、進学を迷ったときの考え方をまとめました。
ポイント
- メリットは資格そのものというより、知識と経験
- デメリットは金銭的、時間的負担
- 医局の人事というニュアンスを含んでいることも
- ざっくり半分ぐらいが、大学院に行くと推測される
- 入りたいなら、メリットはあるのでおすすめする
- 入りたくないならば、デメリットも大きいのでおすすめしない
この記事がキャリア形成の参考になりましたら幸いです。
さて、今回は以上です。
大学院生活全般については、こちらの記事にまとめました。
医師の大学院生活について徹底解説